「弁護士をもっと身近に」をテーマに、無料法律相談や弁護士事務所を探せる法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」は、今年で10年目を迎える。2014年には東京証券取引所マザーズに新規上場を果たし、弁護士社長が率いる企業として各方面から脚光を浴びている。代表の元榮氏は数多くの著作やTV出演、講演などを通じて、専門家の力を活かす社会づくりを提言している。元榮氏の起業までの道のり、そして人生において大切にしているものとは…?
最初の思い出は、2歳のときに感じた「死の恐怖」
元榮氏は1975年、米国イリノイ州エバンストン市で生まれた。最初の思い出は2歳のとき。家族旅行でカナダを訪れ、バンクーバーに架かる世界一長い「キャピラノの吊り橋」を渡ったときのことだ。大人でもロープの横から身体が落ちそうな気がして恐いと評判の吊り橋を歩きながら、わずか2歳だった元榮 氏は初めて死を身近に感じたという。
半導体の技術士だった父と教育熱心な母のもと、3歳まで米国で育ち、その後神奈川県藤沢市に戻った。元榮氏の小学校時代は『キャプテン翼』全盛期。 「野球よりかっこいい」と感じて小学4年生からサッカーを始めた。勉強と平行しながら練習に没頭する日々。朝練もあり、休みは週1日だけ。それでも気の合う仲間と過ごす時間は楽しく、すぐに夢中になった。中学では部員が100人ほどのサッカー部に所属した。成績がよかった元榮氏は先輩から可愛がられ、1年 生のときから特別にスコアラーを任されていたという。
ビジネスに必要な『大局感』を育んだ将棋
サッカーに加え、小学校時代の元榮氏が夢中になった趣味がある。それは将棋だ。将棋好きだった父の影響で、元榮氏も幼稚園の頃から駒に馴染んでいた。小学1年生のときに父から「もう教えることはない」といわれ、その後は藤沢の将棋クラブで将棋を指すようになった。「今でも将棋は好きですね。何手も 先を読む将棋は、局地戦の勝利で満足せずに常に全体をみます。これはビジネスに必要な『大局感』のベースになったと思います」と元榮氏は語る。
中学校の教員だった母は教育熱心だった。「成績がいいと夕食にステーキがでました。それが食べたくて勉強してました(笑)あの頃はよい成績をとって 親に喜ばれるのが大きなご褒美でしたね」とはにかむ元榮氏。しかし中学2年で父がドイツに転勤することになり、初めて両親と対立した。「仲間とサッカーが できなくなるのが本当に嫌でした。私だけ日本に残ってどこかに下宿することも考えたのですが、残念ながら実現しませんでした」
夜の世界に飛び込み、生きた社会を学んだ大学時代
ドイツ には家族とともに1年半滞在した。高校受験のために1人で帰国。湘南高校に進んだ。辻堂の家で始まった誰にも干渉されない1人暮らし。都心に出掛けて洋服 や靴などを買うのが好きだった元榮氏は、新聞配達、コンビニ、ミュージックレストラン、六本木のディスコの黒服などのバイトに精を出した。腕っぷしのよさ が幅を利かせる夜の仕事は、サッカーで鍛えた身体と精神でこなした。トラブルに動じず、物事を冷静に判断・処理する弁護士や経営者としての胆力はここで磨 かれたという。
大学時代は家庭教師センターの営業もやった。元榮氏の体験指導を通じて勉強嫌いだった子どもの目が輝き始め、それをみて喜んだ親は意を決して家庭教 師の契約にサインをする。人の心を動かす仕事のおもしろさを感じた。「家族から離れて1人暮らしが始まり、様々な世界をみたことで人生を自分の力で切り開 く覚悟が生まれました。ドイツでの経験で、日本を客観的にみられるようになりました。当然とされている価値観をいい意味で疑ってみる。そういう意識はいま 新しいビジネスを生み出す原動力になっています」
弁護士がもっと身近な社会をつくりたい
その後、大学2年のときに遭遇した交通事故がきっかけとなり弁護士を目指し、23歳で司法試験に合格。卒業後は大手法律事務所に就職した。その後、 大手ベンチャー企業のM&A案件を担当した際、ベンチャー企業の無限の可能性に魅せられ、起業を決意。「弁護士がもっと身近な社会」の実現を目指 して2005年に弁護士ドットコム株式会社を設立した。8年間の実質赤字など苦難を経て2014年12月に東京証券取引所マザーズ市場へ新規上場。そしていま、「弁護士ドットコム」は国内弁護士約3.6万人の4.5人に1人が登録するまでに成長している。
もし過去に戻れるなら?という質問に「学生のときに起業します」と答える元榮氏。経営者経験の長さが決断スピードUPにつながると確信をもっている からだ。「いま事業は順調ですが、無限大を目指す気持ちを忘れないようにしたい。ヒト、モノ、カネは躍動感があるところに集まります。そのためにも一度きりの人生を全力で楽しむエネルギーを大切にしたいですね。読み応えのある自伝のような人生を送りたい、自分の命を楽しみたいという気持ちが強いんです」と 元榮氏は締めくくった。
取材:四分一 武 / 文:ぱうだー
このインタビューは、株式会社サーキュレーションの提供する
「知見・経験の循環」をめざす知見共有サービス X-book(エックスブック) との連携企画です。
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メールマガジン配信日: 2015年7月22日