テモナ株式会社では、「ビジネスと暮らしをテモナくする」という理念のもと、ストックビジネスの拡大を目指してECビジネスをサポートするサービスを展開している。こちらは2017年4月、東京証券取引所マザーズ市場に株式を上場したばかり。会社を率いる代表の佐川氏は、どんなときにも「なぜ」を問い続け、それにより困難を乗り越えてきた。自分たちは世の中になにを創りたいのかを問い続ける、佐川氏にお話をうかがった。

捜索願を出された、幼稚園の頃

「小さい頃は、やんちゃで喧嘩や悪さが好きな問題児でした」と語る佐川氏は、1980年大阪府に生まれた。幼稚園の頃、1人で電車に乗って遠くへ行ってしまい、家族に捜索願を出され、2日後に帰宅したという武勇伝をもつ。父はトライアスロン、弟はプロ競輪選手。佐川氏も陸上やラグビーなどをやっていたが、父の期待に反して身体を使うよりも頭を使うほうが自分に向いていると感じた。工場を経営していた父の姿をみて、佐川氏も経営者になりたいと漠然と感じていた。

高校卒業後、大学には行かず就職したものの、辞めてぶらぶらする日々を過ごした。自分にはスポーツの記録も学歴もない。誇れるものがないという焦りを感じ始めた頃、2000年にITバブルが到来。自分も一旗揚げようと想い、大阪の小さなシステム開発会社に就職した。技術職を希望していたが、配属は営業だった。1年後、クビを覚悟で社長に直談判し、念願の技術部へ異動が叶った。営業経験で得た人脈を使い、ものづくりの世界に没頭した。

テモナ株式会社 代表取締役社長 佐川 隼人さん変化を楽しむ。留学で得たベンチャーマインド

異動先で2年が経過、営業と技術の分野で実績を積む中、独立を考えるようになった。2005年、佐川氏は会社を辞め、なんと豪州へ留学を決意。自分に許したわがままだったという。「渡航先では学校に通いながら、システムのアルバイトをやっていました。留学経験はその後の自分に大きな影響を与えることになったと思います。今の妻や、テモナ株式会社の創業メンバーに出会ったのは留学先でなんです」。

留学して2年が経ち、帰国する時期が近づいてきた。日本に戻るのが嫌だった佐川氏は、帰国前に東南アジアに放浪の旅に出た。ベトナム、カンボジア、マレーシア。毎日違うところに行き、違う場所に泊まる、変化が当たり前の生活だった。「あの頃の変化を楽しむ日々で、ベンチャーマインドを養われたと思います」。
帰国した佐川氏は、知人との共同経営で大手企業の受託開発を行う会社を設立。新しいスタートを切った。

東京での再スタートは、豊洲の団地から

大規模システムの受託開発を任される中で、その一部にしか携われないことにフラストレーションを感じ始める。「そのシステムはなぜ必要なのか、どう使われるのか、そこに自分なりの確信をもてなかった。実際に使う人と遠い場所にいると思ったんです」。
ちょうどその頃、様々なトラブルが重なり会社の存続が困難になった。佐川氏が担当していた東京の顧客の勧めもあり、東京でやり直すことを決意した。28歳の時だった。

「仲間に東京でやり直そうと思うが、ついてきてくれるか?と聞きました。手を挙げてくれた3人の仲間と一緒に、レンタカーに荷物を積んで東京に来たんです。豊洲の古い団地を借りて、そこを事務所として再スタートしました」。
東京に来た当初は、大阪と同じ受託開発を行っていたが、その中で偶然EC事業のシステムに携わることで、現在の「たまごリピート」を初めとする、リピートITに特化した自社サービスのリリースにつながっていった。

テモナ株式会社 代表取締役社長 佐川 隼人さん「あきらめることを、あきらめる」

テモナ株式会社として自社サービスが軌道に乗っていく中で、佐川氏を常に悩ませたのが「人」だった。せっかく中途の優秀な人材を採用したのに辞めていく。その理由を考え抜いたときに、到達したのは理念だった。「テモナ株式会社はなぜ存在するのか。誰のために、どういう使命をもってどこへ行くのか。理念をしっかり言語化したんです。この価値観に共感する人材で組織を作っていこうと思いました」。

そして理念を実現するために、上場を目指した。上場に向けて組織を強化し、財務を見直し、コンプライアンスを整えた。理念を実現するという主観に加え、上場という第三者の視点が加わることで、より多面的に強い会社になっていったという。
上場を果たし新たなスタートを切ったテモナ株式会社として、佐川氏は将来ストックビジネスの中心で注目を浴びる会社を目指して邁進中だ。そのために必要なものは「人材」ととらえている。

最後に佐川氏の経営者としてのモットーをうかがった。それは「あきらめることを、あきらめる」。経営ではやるしかないことがある。やるかやらないか悩むのではなく、どうやったらできるのかを考える。別な言い方をすれば「NOと言うことをあきらめる」ということでもあるという。「のらりくらりでもいいから、とにかくやってみる。それが道を開くこともあるんじゃないでしょうか」と佐川氏は読者にエールを送った。

取材: 四分一 武 / 文: ぱうだー

メールマガジン配信日: 2017年6月8日