2015年開校の『アガルートアカデミー』は、最難関と呼ばれる法律系の国家資格を主軸に、オンラインによる講義の配信を中心とした資格試験予備校である。合格に向けた最短距離の勉強法にこだわり、徹底的に合理化された学習環境を受講生に提供することで、開校から5年弱にして高い合格率を誇っている。同サービスを主軸に急成長を遂げている株式会社アガルートの代表・岩崎氏は、ご自身も司法試験に合格しながら司法修習の道を選ばず、ネット銀行の法務部への就職、および大手資格試験予備校の人気講師として活躍してきた異色の経歴の持ち主だ。そんな彼が描くのは、資格試験予備校ビジネスのさらなる発展に留まらず、〝教育〟を軸とした社会的なインフラとして機能する企業グループとしてのビジョンである。前例のない未来に挑む起業家は、いかにして生まれたのか。本稿では、岩崎氏の幼少期まで遡り、その人格形成に至った経緯やエピソード、個性的なキャリア選択、ご自身を突き動かす原動力にわたるまで、他メディアでは触れられていない貴重なインタビューをお届けしたい。

国家試験、検定試験等のオンライン予備校『アガルートアカデミー』

『アガルート(AGAROOT)』という社名には、〝資格取得を目指す皆様のキャリアや実力、モチベーションが上がる道(ルート)となり、資格を活かして飛躍される方々の出発点・原点(ROOT)になる〟…という想いが込められています。弊社の看板事業である『アガルートアカデミー』は、「受験生が本当に必要としていること」を見極め、合格への最短距離を示す道しるべとして機能する資格試験予備校を目指して、2015年に開校しました。

『アガルートアカデミー』の特徴は、オンライン学習に特化したハイクオリティな講義と教材の提供にこだわっていること。国家公務員総合職試験、司法書士、行政書士、宅建、国内MBAなど、総合予備校として幅広い講座を展開していますが、特に難関と呼ばれる司法試験・予備試験対策講座において、短期合格を目指す受講生に向けた徹底的に合理化された独自のカリキュラムが、高い評価をいただいています。現行の司法試験というのは、2011年まで行なわれていた旧司法試験とは傾向が大きく異なります。そこで弊社では、新司法試験の合格者のみを講師として迎え、受講生への個別指導・論文添削指導など、オフラインでのサポート体制も充実させています。また、他社に比べてリーズナブルな受講価格も、選ばれている理由の一つです。受講生は、講義の音声をダウンロードすると、無期限で講義を聴くことができるなど、移動時間などを活用した効率的な学習方法を提案しています。おかげさまで2019年度には、司法試験合格者の約3人に1人にあたる523名の司法試験合格者を、『アガルートアカデミー』から輩出することができました。

また、『アガルートアカデミー』の派生事業として、オンライン医学部受験予備校『アガルートメディカル』、資格試験対策の書籍を中心とした出版事業、AIリーガルデータベースを活用したリーガルテックサービス『アガルート リーガルコモン』をはじめ、「教育」領域を軸にテクノロジーを掛け合わせた、多角的な事業展開を進めております。

株式会社アガルート 代表取締役 岩崎 北斗さん人と同じことができない。「変わり者」を自覚した少年時代。

東京都東久留米市の出身です。幼い頃から、なかなか社会のルールに適合できない人間でしたね(笑)。周囲が当たり前にできることが、なぜか自分にはできないんです。たとえば、始業時間を守ること。授業はもちろん、部活の朝練などにも遅れがちで、中学時代には部活を転々としました。1週間で辞めた部活もあれば、長く続いた部活でも半年くらい。幼い頃には〝自由な子ども〟で済まされましたが、その頃にはもう、社会不適合者の様相が顕著になっていたと思います(笑)。人と同じことができない自分に対して、なんとなく違和感は持っていました。どこへ行っても浮いている感覚がありましたから。周囲の人が疑問を持たない物事でさえ、腑に落ちないと納得しない性格なんです。たとえば、一つ歳上なだけで、なぜ「先輩」と呼ばなければいけないのか。なぜ休日に部活の先輩の応援に行かなければいけないのだとか…(笑)。ルールにそのまま従わないので、先生方にとっては厄介な生徒だったと思います。一方で、2歳下の妹は社会にしっかり順応していたので、私のせいで迷惑をかけたことも多かったかもしれません。「あの変わったお兄さんの妹でしょ」…って(笑)。ちなみに部活は長続きしなかった私ですが、小1から始めたピアノだけは好んで続けており、音楽祭などの伴奏も率先して担っていました。

高校時代。「雨の日・風の日は欠席」というマイルール。

高校は、自宅から通える距離の公立高校へ。制服もなく、かなり自由な校風でした。当時はろくに登校もせず、自宅でダラダラ過ごしていました。自転車通学だったので、通学が困難な「雨の日」「風の日」には欠席!…というのがマイルール(笑)。だいたい昼頃に起きて、母と一緒に『辛口ピーコのファッションチェック』を観ながらお昼を食べるのが日課でした。午後はゲームをして、夕食後はTVを観て寝る…そんな日々です(笑)。家庭はこの通り、放任主義の教育方針でした。自由を許す代わりに、責任は自分でとりなさいという感じです。両親から「勉強しろ」と言われたことは一度もありませんでしたが、勉強しないで将来的に困るのは自分だということは自覚していましたね。

高校3年生になったとき、ようやく将来のことを考え始めました。やりたいことも特にない。一方で、まだ働くつもりもない。それなら大学へ行こうかと考え、初めて受験勉強に取り掛かったのです。とはいえ、まったく勉強してこなかった私には、そもそも受験勉強の方法がわかりません。いったい自分は何が解っていないのかさえ、把握できていない状態でした。手始めに新聞広告で見つけた『Z会』の教材を取り寄せてみたものの、すぐに挫折。結局その1年間は右往左往しているうちに終わってしまい、浪人するという結果になりました。このままだとニートになってしまう…。自分の人生、両親が助けてくれるわけでもないので、手探りながらも徐々に勉強のコツを掴んでいきました。

司法試験まで残り半年間で猛勉強! ニートの危機から1発合格へ。

株式会社アガルート 代表取締役 岩崎 北斗さん1年間の浪人生活を経て、早稲田の法学部へ。特に弁護士を目指していたわけでもなく、両親が卒業生だったこともあり、早稲田へ進むことにしました。キャンパスへ行くのは、週に1回程度。1年目から、ほとんど遊んでいましたね。アルバイトは塾講師や家庭教師、倉庫の品出しなど、単価が高いものや単発日給の仕事を選んでやっていました。引越しのバイトは日給が良かったものの、根性がなくて1日で折れました(笑)。当時はマンガ喫茶のナイトパックでマンガを読みふけるか、友達と飲んだくれて朝まで過ごし、昼過ぎに起きて二日酔いのままバイトへ向かうような、超だらしない生活を続けていました。

さんざん遊び倒した結果やることもなくなり、大学2年生からは司法試験予備校へ通い始めます。当時は法科大学院へ進めば、司法試験の合格率は7割といわれていました。「7割受かるなら楽勝じゃん!弁護士になったらラクして食っていけるなんて最高だわ♪」当時は、そんなふうに考えていましたね(笑)。大学生のうちに司法試験を受けるという選択肢もありましたが、私はまだ働く気もないし、何より勉強していないので、法科大学院へ進む道を選びました。それこそ留年ギリギリで、大学院へ行く直前に、ようやく必要な単位を取り切ったわけですが…。慶應の法科大学院に合格したあとも、司法試験の日程は2年も先。相変わらずのらりくらりの生活でしたが、さすがに本番が半年後に迫ったとき、ようやく焦り始めました。このままではニートになってしまう!公務員家庭で決して経済的余裕もないなか、大学院まで行かせてもらっておいて、ニートになってしまっては両親に顔向けできない…。ようやく追い詰められて猛勉強の半年間を過ごし、運良く司法試験に合格することができました。

司法試験合格後は、個性的なキャリア選択へ。

司法試験に合格したあとは、アルバイトや就職活動をして過ごしました。就職活動のなかで見えてきたのは、法律事務所は激務だという新事実!業界には〝9時-5時〟という言葉さえあり、新人は朝9時から翌朝5時まで働くというハードワークの常識を意味していました。ラクして稼げるなんて、まったくの嘘だったのです(笑)。民間の法務部なら休みもしっかり取れるとのことで、私は内定をもらったネット銀行の法務部へ就職することにしました。実は当時、銀行から兼業申請を承認いただき、週末限定で大手資格試験予備校の講師の仕事もしていました。副業がまだ一般的ではなかった当時、なかなか画期的な働き方だったと思います。その予備校では学生時代に講師のフォロースタッフのアルバイトをしており、面白そうだと興味を持ったのがきっかけでした。結果的に1年後にはどちらか一方の仕事を選択することを求められたため、銀行を辞める決断をしました。なぜなら、予備校講師の仕事のほうが面白かったからです。

講師として他人に教える仕事というのは、試験で自ら高得点を取るよりも難易度の高いものでした。受講生が正確に理解し、成果が上がるよう指導するには、自己の理解度を一段高める必要があります。講師業に就いてからのほうが、自分の受験生時代よりも勉強しましたね。そのうち教壇に立つだけでなく、司法試験事業部の予算策定から講座の企画・立案、営業・マーケティングまで、経営に近い部分の業務も任せてもらえるようになりました。その過程で私には、予備校経営に関する多くの課題意識が芽生えていました。しかし、オーナー企業である以上、決裁が下りなければ自由に改革することは許されません。独立するか、会社に残るか。しばらく悩んだ結果、我が強すぎる自分はきっと、将来どこかのタイミングで会社と衝突するだろうという結論に至り、5年間お世話になった予備校を退職することにしたのです。

2015年1月、資格試験予備校『アガルートアカデミー』を開校。

株式会社アガルート 代表取締役 岩崎 北斗さんと共同創業者 岩瀬さん前職時代に予備校経営に関わるなかで、私が〝不合理〟だと感じていたこと。それは、ハコ(校舎)を持つ経営体制でした。こんなにもテクノロジーが発達した社会において、忙しい社会人がわざわざ校舎に通うことは現実的ではありません。企業としても、校舎がなければコストも下がるし、収容人数の制限もなくなります。講師も同様、毎年のように同じ講義を繰り返さなければならないのは非効率でしかないわけです。私が独立するからには、オンライン配信による資格試験予備校を開校すると決めていました。

とはいえ、ITの知識も経験もなかった私には、まさに手探りのスタート。映像制作、配信、決済システムなど、アイデアを実際のビジネスに落とし込む作業には、相当な苦労がありました。講義の内容やテキストの制作は私が手がけ、バックオフィスの業務は共同創業者の岩瀬に任せて始めました。実のところ、開校当初は拡大路線を想定していませんでした。良質なコンテンツを作り込んで仕組み化すれば、ビジネスをある程度の規模で回せると考えていたからです。岩瀬と2人で描いていたのは、1年のうち3ヵ月間働いて、残りの9ヵ月はゴルフをして過ごせるようなビジネスモデルです(笑)。しかし、今から数年前、我々は大きく方向転換をしました。もはや個人企業には戻れないほど仲間も増え、会社としての責任も大きくなっていたのです。腹をくくったからには、もう後戻りはできません。新規事業の立ち上げはもちろん、同時にM&Aを積極的に進め、事業をスケールさせる戦略へと舵を切りました。

〝教育〟を軸とした社会的なインフラとして機能する企業グループへ。

イメージしているのは、LVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン/70超の高級ブランドをグローバル展開する世界最大のブランドコングロマリット)の経営戦略です。各ブランドの歴史と伝統を守りつつ、グループ戦略によってブランド価値をさらに向上させ、次世代へと受け継いでいく企業体としての在り方を、私たちは〝教育〟の領域において実現させたいのです。そのために今後は、M&A事業に本格注力していきます。事業の拡大スピードを徹底的に上げるうえで、教育業界の各領域はマーケットが小さく、成長のキャップがすぐに訪れるという課題があります。だからこそ、弊社は主力事業の『アガルートアカデミー』の成長から生まれるキャッシュフローをM&A事業に投下し、ポートフォリオ戦略で勝負できると考えているのです。今年2月、教育業界に特化した転職支援・メディア事業を運営する株式会社ファンオブライフを子会社化しました。教育分野の人材紹介事業をグループ化することで、私たちは資格取得後のキャリア支援をはじめ、メディアを通じた教育業界の最先端の情報収集・発信が可能となりました。LVMHのように、社会的なインフラを築き上げたグローバル企業は、教育の領域において未だかつて存在しません。よほど変わった人間にしか創れないのではないかと思っています。その点では、私は人と違ったことしかできない変わった人間です。ある意味〝社会不適合者〟だからこそ、オリジナリティのある経営が成り立つのではないでしょうか(笑)幼少期から〝生きにくさ〟を感じてきた〝変わり者〟の自分だからこそ、まだ誰もやっていないことを実現できるチャンスがある。ビジョンを実現させたいという想いが、私にとって最大の原動力ですね。

株式会社アガルート 代表取締役 岩崎 北斗さんもっと長いスパンの話でいうと、10~20年後には、経営者の育成も手がけていきたいと考えています。我が国の人口は今後、大きく減っていきます。日本が経済的な発展を遂げるためには生産性を高めることが急務であり、そのためには実力のある経営者の育成が欠かせません。これまで経営者というのは、各所で自然発生的に生まれてきました。しかし、私は体系的に経営者を育成する仕組みづくり、つまり〝サイエンス〟で挑んでみたいのです。会社経営を続ける以上、我々にとって社会貢献は切り離せないものです。その意味でいえば、やはり教育の分野、なかでも経営者の育成という形で、日本の未来に貢献していければと考えています。弊社は今、ベトナムに現地法人を設立し、海外の事業展開を積極的に進めているところです。まずは今後5年間で、教育を軸に、社会的なインフラとなる企業グループへの基盤づくりに注力していきたいと思います。

 

◆ 編集後記 ◆

株式会社アガルートの代表・岩崎氏は、前職時代の大手資格試験予備校時代から、「工藤北斗」という名前のカリスマ講師として活躍されていた方である。現在も有名講義の多くを担当し、司法試験の指導を開始以来、多くの最年少合格者を輩出してきた実力者である。2019年度の司法試験において、アガルートの合格者占有率は34.8%。開校から5年弱にして、目覚ましい実績を誇っている。

そんな岩崎氏は、新司法試験に上位合格した実績を持ちながら、司法修習の道を選ばず、かなりユニークなキャリアを選択してきた人物だ。事実、司法修習に行かなかったのは、同級生のなかで岩崎氏だけだったという。大多数が押し寄せるレッドオーシャンの弁護士の道へ進むのではなく、あえて誰も行かない道を切り拓き、大きな実績を打ち立てた。結果的に、キャリアのレアカード化に見事に成功したのである。

学生時代はマンガ喫茶に入り浸っていたとのことで、好きなマンガを伺ってみたところ、その答えは『キングダム』。理由は、ストーリーに夢があることはもちろん、リーダーとしてのあるべき姿が学べることなど、まるで教科書のような存在だという。ご自身のことを〝社会不適合者〟だと語る岩崎氏は、人と同じことができない性分から、自分には他人の気持ちがわからない部分がきっとあると考えているそうだ。「たとえ感情論としては理解できなくても、他人の気持ちの動きを〝認識できる〟ことは学びになるので、キングダムは何度も読み返しています」と笑う。ちょっと変わった彼だからこそ、会社経営にもその個性が色濃く反映されるものなのかもしれない。これから岩崎氏がどんな未来を見せてくれるのか、非常に楽しみである。

取材:四分一 武 / 文:アラミホ

メールマガジン配信日: 2020年7月20日