CMでお馴染みのモバイルゲーム『キャンディークラッシュ』は、キャンディーを3つ以上つなげて消していくパズルゲームだ。2012年に日本をはじめとする世界各国で配信され、大人気となった。今回はこの『キャンディークラッシュ』をはじめ、多くのコンテンツを手掛けるKing Japan株式会社を訪問。こちらは2014年に日本法人として設立されたばかりの新しい会社だ。自身も「ゲームは趣味のひとつです」と語る、代表取締役の枝廣氏にお話をうかがった。
早くに世を去った父の分まで生きるためのマイルストーン
枝廣氏が率いるKing Japanは、ロンドンに本社があるKingの日本法人だ。Kingは世界13ヶ所に拠点をもち、代表作『キャンディークラッシュ』は総DL数 5億件を超え、66カ国で無料総合1位を獲得している。King Japanでは、Kingのゲームタイトルを日本向けに最適化するためのローカライズや戦略開発、マーケティングを担っている。
「実は英語が苦手なんです」と苦笑する枝廣氏は、電通やゲーム開発会社のgloopsを経てKing Japanの立ち上げに携わった。経営者として新しいスタートを切ったのは、枝廣氏が32歳のときだ。小学校1年生のときに父を亡くした枝廣氏は、父の分まで生きるには、人よりも何倍も濃い人生を送らなくてはいけないと考え、高校3年生のときに50歳までのマイルストーンを作った。それ以降、ずっとそのマイルストーンに沿って人生を歩んでいる。
留年の危機がきっかけとなり、人生のマイルストーンを設定
小さい頃は変な子供だったと振り返る。「勉強やスポーツがかなりできると勝手に自負していたので、天狗になっていたんだと思います。退屈な授業は抜け出して家に帰る、どうしようもない子でした(笑)。小学校1年生のときに父が34歳で亡くなり、祖母、母、弟の4人の家庭で育ちました。母が働きに出たため、祖母が母代わりでしたね。中学受験のために通った進学塾で、ゲームのように勉強を楽しく学ぶことを知り、集中することができて少し落ち着いたと思います」
見事中学受験に合格した枝廣氏だったが、中高一貫校でまた授業をさぼり、ゲームセンターや喫茶店に。最低限の出席日数で進級する緻密な計算をしていたところ、思わぬハプニングで出席日数が足りなくなり、留年の危機を迎えた。三者面談で泣きながら自分をかばう母を見て、それまでの自分を深く反省したという。「時間を無駄に過ごすんじゃなく、形に残るものを作らないといけないと思いました。このときに5年ごとの人生のマイルストーンを決めたんです」
自分の会社としてスタートアップを体験したかった
なんとか留年せずに済んだ枝廣氏は、一橋大学へ。大学ではテニスサークルに所属し、全日本ランキング400位台を記録するほどに熱中した。卒業後は「一流企業に入社」というマイルストーンどおりに電通に入社。ところが、入社直後に直属の上司へ30歳になったら会社を辞める計画を告げたところ、こっぴどく叱られたという。「辞める宣言をする新人より、人生をかけてがんばりますという社員を大事にするのは当たり前ですよね。電通でそれまでの自分の小さなプライドはぼろぼろにされましたが(笑)、仕事を通じて様々なことを勉強した時期でした」
電通では、今は東証一部に上場している某メガベンチャー企業のスタートアップのプロモーションを担当した。急成長を目の当たりにし、エキサイティングでやりがいはあったが、それだけに、外部から支えるのではなく、自分も会社の一員としてスタートアップを体験したい気持ちが強くなったという。そして電通入社から8年後、知人からの誘いでマーケティング本部長としてgloopsに移った。チームを組織化し、数字を上げるという実績を見事クリアし、CMOとして米国へ。そこで出会った人たちとのつながりから、現在のKing Japanの立ち上げに携わることとなり、いまに至る。
スローガンは Japan To Global
King Japanのモットーは「Enjoy working:仕事を楽しもう」「Think globally, Act locally:世界的視野を持ち、行動は地に足をつけて」「Not to take a risk is a risk:リスクを取らないことこそがリスクである」だ。これは会社のスローガンであると同時に、枝廣氏のスローガンでもあるという。現在はヨーロッパのコンテンツを日本で展開しているが、日本特有の良いところをグローバルに反映したい、そのためのハブとして会社を育てているところだと枝廣氏は語る。
仕事を楽しむ枝廣氏が、プライベートで夢中になっているもの、それは生まれてまだ半年の娘さんだ。「子供は人生を賭けたロールプレイングゲームですからね(笑)。自分の子供時代以上に、娘が興味を持ったものは何でもやらせてあげたいです。特に英語は早いうちから学ばせたい。僕のように英語で苦労しないようにしてあげたいんです(笑)」。
「勉強はおもしろくない、仕事はおもしろくないというのは違うと思うんです。勉強も仕事も、実はおもしろいものなんですよね」と語る枝廣氏は、楽しむことが生み出すエネルギーの価値を追求しているようだ。
取材: 四分一 武 / 文: ぱうだー
メールマガジン配信日: 2017年10月16日