私たちが当たり前のようにアクセスするインターネットの世界。接続で割り当てられたIPアドレスから、アクセスユーザーの位置情報やインターネット接続環境を認識するオンリーワンの技術「SURFPOINT」を開発したのが、今回訪問した株式会社Geolocation Technologyだ。ユーザーの位置情報は、ビジネスだけでなくセキュリティや犯罪捜査といった幅広い分野で活用されている。今年で17年目を迎える会社を率いる、山本氏にお話をうかがった。
位置情報がもたらす便利さと安全
2000年に創業し、今年で17年目を迎える株式会社Geolocation Technologyの本社は、静岡県東部の三島市だ。静岡発の企業として「本社を静岡県東部から移さずに、3年以内に東証マザーズ上場を目指す」ことを目標としている。こちらの会社が開発したIPアドレスからユーザーの位置情報を取得するSURFPOINTは、ANA、ヤナセなどといった大手企業に導入されている。ANAではユーザーの最寄りの地域を選択肢に優先的に表示するなど、ネットの様々な場面で位置情報がもたらす利便性が評価されている。
こうしたビジネスだけでなく、SURFPOINTの位置情報は私たちの安全を守る犯罪捜査の現場でも活用されている。「弊社のSURFPOINTは警視庁でも活用いただいています。事件が起きたときに警察が犯人を特定する最初の手がかりは、この位置情報なんですね。その人物がどの地域からどのプロバイダを経由してアクセスしているのかは、非常に重要な情報となります」と山本氏は語る。最近では、地元の静岡県警のサイバー犯罪対策課からの要請で、位置情報を警察の初動捜査に活用するための研修も行っている。
大人の男性=社長と思った子供時代
山本氏は静岡県沼津市で生まれた。小学校2年生の頃、父が病死し、母子家庭となった。「父は33歳で亡くなりました。私はまだ小さかったので事情がよくわからず、やけに入院するなあと思っていたら、急に亡くなってしまったんですね。その後、父の死はいつも心のどこかに引っかかっていました。亡くなった父をなぞる気持ちがあったんでしょうね。『自分も早く結婚して子供を作らないと』と焦った時期がありました」。と山本氏は当時を振り返る。
山本氏に残された父の言葉は「ボーイスカウトを続けること」だった。父の遺言を守った山本氏は、週末になるとボーイスカウトへ。そこで子供たちを率いるリーダーや隊長の大人には、社長が多かったという。「たまたまそうだったんでしょうけど、私にとって大人の男性=社長という印象が強く焼きつきました。自分も大人になったら社長になるぞ!と漠然と思いました(笑)」。高2のときにはボーイスカウトの聖地、ニューメキシコに3週間滞在。地図を片手に6人のチームでキャンプ地を徒歩で移動しながら、遺跡発掘や登山道整備などのボランティア活動を行った。「1日15~20キロは歩きました。大変でしたが楽しかったですよ」と山本氏は笑顔で語る。
高校卒業後、陸上自衛隊へ。ネットワーク運用部門に配属
ボーイスカウトのない平日はTVゲームにはまり、高校時代はあまり勉強しなかったという山本氏。街で声を掛けられたことがきっかけで、大学ではなく陸上自衛隊に進んだ。「TVゲームを通じて、プログラミングに興味があったんです。でもうちは母子家庭な上、高校であまり勉強しなかったので大学進学は難しい。進むとしたらIT系の専門学校かなと考えていたところ、地元で陸上自衛隊に勧誘されたんです。『コンピュータも学べるよ!』と聞き、入隊を決めました」
陸上自衛隊では、御殿場駐屯地に4年。ボーイスカウトでのキャンプ経験が功を奏したのか、泥だらけになる演習はまったく苦ではなかったという。駐屯地では部隊内のコンピュータネットワークの運用部門に配属となった。この当時はパソコン通信からインターネットに移行する過渡期。山本氏も個人の通信環境をNIFTY-Serveからインターネットプロバイダに変更した。このときに契約した静岡のプロバイダに求人情報をみつけ、転職を決意した。「入隊して4年が経ち、旧態依然とした自衛隊のネットワークではなく、新しい環境に触れてみたかったんです。新しい技術を学びたいという気持ちが強かった」
静岡発の企業として、地元を元気にするIPOを目指す
入社後は営業として個人家庭の接続設定、企業のセキュリティ構築、webサイトの提案など、幅広い業務に携わった。ちょうどインターネットが爆発的に普及し始めた頃だった。そして入社3年目にIPアドレスから位置情報を把握する技術的アプローチを思いつき、社長に提案。ところが社長の反応は芳しくなかった。時はベンチャーブーム。ベンチャー企業の勉強会に顔を出していた山本氏は、そこで接点のあったベンチャーキャピタリストの支援を受け、資金を調達し起業した。
創業は2000年2月だった。初めての顧客を獲得する12月までは開発に没頭する日々。CTOは地元のエンジニアを採用し、10数人の学生アルバイトのチームで開発にあたった。IPアドレスが持つ位置情報やアクセスポイント、組織形態を解析して結び付ける地道な作業の蓄積から始め、現在のシステムに到達した。そして2006年頃からANAをはじめとした大手顧客も獲得し、現在に至る。
株式会社Geolocation Technologyのこれからの大きな目標は、IPOだ。そのために現在のマーケティングや広告だけでなく、セキュリティ分野にも深く入っていく計画だという。さらにこれまでの技術ライセンス型ではなく、エンドユーザーに届くサービスにも新たに参入する予定だ。
「証券会社とIPOについて打ち合わせすると、静岡の企業のIPOが少ないことがわかります。実力のある企業は少なくないのに、IPOに及び腰のところが多いんですよね。だからこそ弊社のIPOで、地元の企業に刺激を与えたいという夢もあるんです」と山本氏は将来を熱く語る。
「本社が東京ではないことで、情報に翻弄されることなく、17年間粛々とやってこられたんだと思います。会社として欲を出したくなる危険な情報は、箱根の山はなかなか越えてこないのがいいんです(笑)」と冗談をいう山本氏。個性と元気のある企業のひとつとして、静岡から日本を元気にしていくその夢を応援したい。
取材: 四分一 武 / 文: ぱうだー
メールマガジン配信日: 2017年10月2日