「リユースという言葉を、世の中のあたりまえに」という理念のもと、買取を核として様々なビジネスを拡大している株式会社SOU。代表を務める嵜本氏は、ガンバ大阪のプロサッカー選手という異色の経歴をもつ経営者だ。サッカーからビジネスの世界に転身し、年商200億円を超える成功を勝ち取った背景には何があったのだろうか。モダンな家具がゆったりと並ぶ開放感溢れるオフィスで、嵜本氏にお話をうかがった。
順風満帆だったJリーガーへの道、そして挫折
3人兄弟の末っ子として大阪で育った嵜本氏が、サッカーと出会ったのは小学校4年のとき。夢中で練習するうちに実力を発揮し、高校はサッカー推薦で入学した。「学生時代はサッカー一筋でした」と当時を振り返る嵜本氏は、サッカーが青春だった。高校によい選手を探しにきていたガンバ大阪の関係者にスカウトされ、卒業後はガンバ大阪に入団。テレビで活躍するカズに憧れ、小学校の卒業文集に「将来はJリーガーになりたい」と書くほどサッカーが好きだった嵜本氏にとって、小さい頃からの夢が叶った瞬間だった。
ところが入団して2年半が経った頃、戦力外通告を受けた。ガンバ大阪を去った嵜本氏は、JFLに加盟していた佐川急便大阪SCに所属することになった。午前中は佐川急便の社員として荷物の仕分けをし、午後は練習という日々だった。「憧れのJリーガーという夢を手に入れた後の挫折は苦しかったですね。悔しさはもちろん、なぜ俺だけがと考えることもありました。以前は芝生のグラウンドで練習していたのが、土のグラウンドに変わる。プライドはずたずたになり、天国から地獄に落ちたような気がしました」
Jリーガーを諦め、リユース業界へ転身
「このままサッカーを続けて、J1、J2に返り咲けるのか」と考えたとき、嵜本氏はNOと判断した。プロサッカー選手として通用しない自分自身を受け入れた。「小さい頃からの夢を思い切って手放すことにしたんです。客観的に自分の実力をみたときに、選手としての未来は描けなかった。それなら夢中になれる別なものを見つけて、それで新たなキャリアを築こうと決心したんです」。そう考えた嵜本氏は、佐川急便大阪SCを辞めて2005年に父の事業に参加。まったく違う世界での第一歩をスタートさせた。
嵜本氏の父は大阪で白物家電やオフィス家具などのリサイクル事業に携わっていた。兄たちと一緒に仕事をする中で、物を中心にそれが必要でない人から必要な人へつなぐことで、利益が生まれるおもしろさを知った。より多くの利益が得られるものはなにかと考えると、ブランド品や時計などの高級品が第一に挙がってくる。そこで2007年大阪の難波にブランド品の買取専門店「なんぼや」をオープンさせた。10坪程度の小さな店だったが、開店して半月も経たないうちにこれまでのひと月の売上を更新した。ブランドビジネスへの期待を確信した嵜本氏は、その後梅田、三宮にも出店。現在では40店舗に拡大するまでとなった。
目標を実現させるロジックは、サッカーもビジネスも共通
「サッカーを辞めるとあのときに決断できて、本当によかったと思っています。スポーツ選手がセカンドキャリアを確立しにくいことは、以前から問題になっていますよね。セカンドキャリアを考えるなら、早ければ早いほうがいい。でもプライドや過去の栄光、まだいけるんじゃないかという希望が決断を妨げるんですね。夢を実現するためには、冷静な状況判断と実現に至るまでのロジックが必要です。それはプロサッカー選手でも、経営者でも一緒なんだと思います」
リユースの世界で成功すると決めた嵜本氏は、サッカーに打ち込んでいたときと同じように突き進んだ。目標を実現するための課題はなにか、今日はなにをすればよいのか。ひとつひとつの課題を克服することで、目標に近づいている手ごたえを感じる。その手ごたえをモチベーションとして、PDCAサイクルをまわし続けた。「サッカーを諦めたときの悔しさもモチベーションでした。この判断が間違っていないことを証明してやると思っていました」
サッカーではもっとできるのに、評価されるレベルで手を抜いていたこともあった。いつも100%でやっていれば、違った選手になれたかもしれない。次は同じ失敗は繰り返さない。必要なこと、できることは全てやるという覚悟で嵜本氏は新たなスタートを切った。
会社を成長させるトップ、社員に必要とされるために
ブランド品の買取専門店から始まり、いまでは買い取った商品をB to Bで同業他社に売るオークション、ヴィンテージセレクトショップなどに事業を拡大してきた。そして日本国内に留まらず、香港をはじめとしたアジア圏でのオークションビジネスも射程に入れている。嵜本氏によると、リユースへの抵抗感は近年大きく変わりつつある。質屋のような委託が主の中国・アジア・米と異なり、買取が浸透している日本では、リユース市場は成熟しているといえる。
日本の中古品は「used in Japan」「checked in Japan」とされ、プレミアムがつくことが多いという。これは中古品を買い取るときの真贋確認や、売るときの配慮に、付加価値がついていることを示している。こうした日本式オークションを海外に広めることを通じて、日本発のリユースという価値観が世界でも当たり前になることを目指していると嵜本氏は語る。
「社長は社員に必要とされなければいる意味がありません。会社を成長させるトップ、社員に必要とされる人間でいるために、常に危機感をもっています。仕事では『聞く』ことが最も大切だと考えているので、わからないことは一緒に働くその分野のプロたちに聞いています。かっこつけずに聞くことで、新しいことに気づき成長できる。そして正しい決断につながるんだと思います」
取材: 四分一 武 / 文: ぱうだー
メールマガジン配信日: 2017年4月14日