ベンチャー企業の資金調達を実現する、日本初の株式投資型クラウドファンディングサービス『FUNDINNO(ファンディーノ)』。同サービスは、2017年4月のリリースより累計成約額22億円を突破。登録ユーザー数およそ1万7千人、国内NO.1の取引量を誇るプラットホームへと成長している。同サービスを運営するのは、若き2名の起業家が率いる株式会社日本クラウドキャピタル(本社:東京都品川区、代表:柴原 祐喜/大浦 学)。日本における〝フェアに挑戦できる未来を創る〟をビジョンに掲げ、新たな常識づくりに挑む彼らは、どのような人物なのだろうか。今回はCOOの大浦氏に、彼の生い立ちから創業ストーリー、今後の展望にわたるまで、さまざまなお話を伺うことができた。
日本初!株式投資型クラウドファンディングを、企業の資金調達の常識に。
弊社はベンチャー企業と投資家のマッチングを行うプラットホームサービス『FUNDINNO(ファンディーノ)』を運営している会社です。同サービスの特徴は、企業が非上場株式を発行することで、インターネットを通じた〝株式投資型〟の資金調達を実現できること。2015年の金融商品取引法の改正を機に、弊社が日本初のサービスとして2017年にリリースしました。それまでは、日本におけるベンチャー企業の資金調達手段といえば、金融機関からの融資がメイン。または、起業家が自らベンチャーキャピタルやエンジェル投資家のもとへ足を運び、出資を募る必要がありました。株式投資型クラウドファンディングが解禁されたことで、企業はインターネットを通じた個人投資家集団へのアクセスが可能になり、年間最大1億円未満までの出資を、1口およそ10万円程度から公募できるようになったのです。
従来の「購入型」「寄付型」のファンディングとは異なり、「株式投資型」のファンディングは、出資者への金銭的な見返りを前提としています。出資者は、そのまま会社の株主になるため、投資先企業の株式価値がIPOやバイアウトにより上昇した場合には、利益を得ることができます。また、自ら応援する企業の株主になり、ビジネスの成長過程を共に体感できることは、それ自体が価値ある投資体験になり得るのです。企業側にとっても、創業時における強固なファンの存在は、大きな力になりますよね。
インターネットがこれだけ発達してもなお、鎖国状態が続いていた日本のエンジェル投資の世界。2015年の規制緩和により、Webを通じたスタートアップの資金調達が可能になり、ようやく機会が開かれました。これまで個人投資家にとって非上場株式市場は、企業の利害関係者をはじめとした限られた人だけが投資できるクローズドな世界でした。投資先の発掘も、企業を評価するための情報収集も、投資家個人に委ねられていたのです。エンジェル投資はそもそもリスクが高いのに、これでは多くの投資家が手を出せません。その点『FUNDINNO』では、応募企業の詳細な調査、リスクの洗い出しなど、弊社が代行して審査を担います。個人投資家保護の観点から、審査体制は厳正です。公認会計士等の専門知識を有する者を中心としたチームで行い、最終判断は「全員一致」を条件としています。また、一口500~1000万円単位の出資額も、エンジェル投資のハードルを高める要因でした。『FUNDINNO』の登場で、一口およそ10万円程度からの出資を実現したことは、「エンジェル投資の民主化」に、少なからず貢献できたと感じています。
とはいえ、『FUNDINNO』の登録ユーザー数は、まだ約1万7000人。口座数としては、約300万口座までは拡大できると踏んでいます。現在、上場株の取引口座数は約1000万口座。大手証券会社においては、上場株の取引口座数だけで、平均300万口座を保有しています。将来的に、エンジェル投資やスタートアップ投資が一般的な投資商品になった際には、同様の口座数は目指せるはずです。仮想通貨の取引でさえ、約60万口座を獲得できたのだから、可能性は十分にあります。エンジェル投資やスタートアップ投資を普及させるには、与信の観点から企業の審査精度を高め、市場に一定のフィルタリングを機能させると同時に、投資家に成功体験をもたらすマーケットの創出が何より必要です。時間はかかりますが、『FUNDINNO』を通じて出資を受けた企業が上場するなど、具体的な数字が出てきたときに、一般的に受け入れられる投資商品になると考えています。
明確な夢などなかった少年時代。消去法で起業の道へ。
生まれは千葉県野田市です。幼い頃から、おとなしい子どもだったと思います。記憶にあるのは、年に数回しか父親に逢わなかったこと。父は当時、システムの受託開発の会社を経営していて、ほとんど家に帰ってきませんでした。そのせいか、私の起業家に対するイメージは、長らくネガティブなものでしたね(笑)。とはいえ、父から影響を受けたこともあります。父の趣味で、家には10本以上のギターがありました。たまに帰ってきてはギターを弾く父を見て、いつしか自分も触るようになったんですね。小学4年生の頃には、すっかりハマっていました。アコースティックからロック、パンク、メタルなど、さまざまなジャンルの音楽が好きになり、高校では軽音楽部、大学時代も複数のバンドを掛け持ち、音楽三昧の生活をしていました。
将来のことを意識したのは、就職活動が始まってから。それまでは、特に何も考えていませんでした。高校も大学も、すべて「なんとなく」の選択。逆に聞きたいのですが、起業家の方々って、若い頃から自分の進む道を見つけていた人ばかりなのでしょうか。弊社サービスの成約案件のなかにも、22歳の経営者がいますが、彼が起業したのは15歳のとき。仕事を淡々と受けていたら、自然に起業していたそうです。既にベテラン経営者然の風格で、私には適わないなと感じました。今や独立しようと思えばPC一つで叶う時代。デジタルネイティブ世代にとって、若くして将来の道が見つかるケースは増えていくでしょう。私自身は大学3年生になってから、ようやく会社説明会に参加しました。当時の私が興味を持っていたのはコンサル業界。さまざまな分野に携われて、面白そうだと思ったのです。しかし、業界人から実際の話を聞いてみると、自分が描いたイメージとのギャップを感じました。コンサルタントは、あくまでアドバイスをする立場。自ら施策を実行するわけではありません。就活を通じて、理想の仕事像が明確になると同時に、それを実現するための手段は、起業しかないという答えに至りました。
大学院時代に起業。システム開発会社からのスタート。
私が求める未来を掘り下げていくと、複数の会社を立ち上げ、さまざまな分野のビジネスを手がけているというイメージがありました。そこで、まずは基礎的な知識を身につけてから起業しようと、中小企業診断士の勉強を開始。同時期に、プログラミングも学び始めました。また、人脈づくりを主な目的に、明治大学の大学院にも通い始めました。そこには、大企業の役員・部長クラスの方々が、たくさん学びに来ていたのです。弊社の共同代表の柴原にも、大学院で出逢っています。1年生の終盤には、4人の仲間とシステム会社を設立。将来どんな事業をするにしても、まずはITの知識が必須だと考えたからです。2年間、昼間は起業に費やし、夜間と土曜は大学院に通う生活。ありがたいことに、多くの仕事は大学院の人脈を経て得られました。WEB制作、アプリ・システム開発など、当時は何でも受けていましたね。経験不足から大失敗をやらかして、依頼主にご迷惑をおかけしたことも多々ありました(汗)。
現在のビジネスモデルに至ったきっかけ。
共同代表の柴原が学生時代に研究していたのが、「未上場企業の価値算出」というテーマでした。日米の未上場企業のデータを比較すると、日本企業の資本金の少なさは歴然。ベンチャー企業の成功に、「資金調達」は重要なファクターです。国内にその環境が整備されていないのなら、自分たちで創ろうと考えたのが始まりでした。柴原が渡米して持ち帰った情報など、海外事例をとことん研究し、日本の法律に合わせて仕上げた事業モデルです。
多分野のビジネスを手がけたいと考えていたわりに、この事業を始めてから、他の業務は一切できなくなりました(笑)それでもこのビジネスに絞ったのは、市場における先行優位性を重視したのもありますが、何よりコミットする価値があると感じたからです。なぜなら、私自身が資金調達で苦労してきたから。システム会社時代に、外部資本の投入を試みた時期があったのですが、バリュエーションや投資契約書の交渉で頓挫し、結局は実現しなかったのです。投資家と起業家の間に、〝情報の非対称性〟を痛烈に感じた経験でした。やはり、投資家の立場のほうが強いのです。株価の決め方にしても、契約書の条項にしても、フェアな関係は成立しえない。もちろん、投資会社の事業構造上の理由もあります。ベンチャーキャピタルというのは、投資家のお金を預かって運用する立場。彼らの顧客は投資家なのです。知り合いの起業家のなかには、投資契約において「買戻条項」が付加されたケースも多々ありました。ベンチャー投資はそもそもリスクマネーの供給なのに、上場できない場合に即返金を求められるのでは、事業を継続できません。起業家にとって、あと少しの資金が集まれば、苦境を乗り越えられるケースは多々あります。交渉が長引いている間に、潰れてしまう企業も実際にあるのです。このような経験から、日本のベンチャーの発展のためには、もっと迅速に、真の意味でのリスクマネーを供給できる環境が必要だと、課題意識を持っていました。
金融業界の知識ゼロで参入。予想以上に苦労した創業期。
2015年5月末に金融商品取引法が改正されたのを機に、『日本クラウドキャピタル』を創業。2016年10月に、国内初の第一種少額電子募集取扱業者として登録が承認されました。サービスの開発自体は先行して進めていたのですが、証券を取扱う免許を取得するのに、なんと1年半もかかってしまいました。当初は3ヵ月ほどで免許を取得し、事業を開始できると踏んでいたところ、規制業種への参入障壁の高さを、あとで思い知ることになります(笑)。免許を取得するには、社内規程や組織体制について、気が遠くなるほどの書類提出と、ビジネスモデルに関する詳細な質問への回答を、何度も求められるのです。業界知識が皆無に等しかったので、金商法を片手に、とにかく走りながらの体制づくりでした。当時は資金力もなかったので、かなりギリギリの状況。生き延びるために、我々自身も資金調達を試みました。しかし、ベンチャーキャピタルに話を持ち込んでも、免許取得前だったので当然ウケが悪い。このときにも資金調達には苦労したので、事業に対する使命感は一層強くなりました。投資家との縁に恵まれなかったせいで、スタートアップが潰れたり、事業展開が遅れたりするのは大きな機会損失です。Web上で、「フェアに挑戦できる未来を創る」を創ることは、大きな価値になると確信していました。
企業にも投資家にも、機会が開かれたフェアな世界を創るために。
現在、自社で新たに開発しているサービスに、企業の「ステークホルダー管理」を可能にするプロダクトがあります。我々が最も得意としているのは、株主管理の分野です。日本の企業は現在、株主総会の招集通知を〝紙〟で送っています。そのような通知物はもちろん、このプロダクトを活用すれば、株主総会そのものを電磁化できるのです。現状、非上場株を売買する際には譲渡制限があり、株主総会での承認が必要になります。その際の課題は、非上場企業の株主総会が非常に煩雑なこと。また、株主名簿の信憑性が低いこと。というのも、多くの企業の株主名簿は、Excel等で管理されています。株主が増えたらリストに追加して、印鑑を押すだけ。なぜなら、株主名簿は個人情報の管理であり、登記の必要がないからです。株主総会の電磁化ができれば、招集にまつわる大幅なコスト削減に加え、ブロックチェーンの導入により第三者に対する株主名簿の信憑性を確保することができます。その結果、非上場株の売買において、投資家に対する公平性を実現できるのです。
また、株主総会や取締役会を電磁化すると、情報の「プラットホーム化」が可能になるというメリットもあります。弊社には、応募企業の資金調達時の事業計画をはじめ、その後の実績値にわたるまで、時系列の詳細データが蓄積されています。この情報をプラットホーム化し、「企業」「ステークホルダー」「投資家」3者が活用できるようになれば、多くの課題解決に繋がるでしょう。企業にとっては、会計士や弁護士など、対ステークホルダーへの情報提供コストを大幅に削減できます。また、ストックオプションなど自社株情報へのアクセスが可能になれば、従業員のモチベーション管理にも活かせるはずです。ステークホルダーにとっては、企業の軌跡や最新情報を得ることで、的確なサービスを提供できるようになるはずです。投資家にとっては、株式売買における安全性・公平性の確保が可能になります。最も大きいのが、M&A市場です。企業情報を時系列で「見える化」することで、買い手にとっては審査のコストを大幅に削減でき、意思決定がスムーズになるというメリットがあります。銀行やベンチャーキャピタルをはじめ、金融機関の意思決定に要する審査期間は、非常に長いのが現状の課題です。この部分のシステム化を図ることで、企業の円滑な資金調達を実現し、投資家が企業へ投資ができる機会が開かれた世界が創れると考えています。
日本から、真のグローバル企業の輩出を。大浦氏が描く、実現したい未来。
日本における株式投資型クラウドファンディングには、2つの大きな規制があります。1つは、企業が調達できる資金が、年間最大1億円未満までに制限されていること。もう1つは、投資家が1社に投資できる金額が、年間最大50万円までに制限されていること。本来は、投資家の資産額に応じたキャップを設けることが最適なはずです。この規制が緩和されたときに初めて、日本から真のグローバル企業の輩出が、資金調達プラットホームを通じて実現できるのではないでしょうか。我々が持っている問題意識の一つに、日本から『Google』や『Facebook』のようなグローバル企業が生まれてこないことが挙げられます。悲しいかな、30年前には世界の時価総額ランキングトップ50社に、日本企業は20社ほど君臨していたのに、今ではトヨタしか名前がなく、中国にも完全に抜かれてしまっています。持論としては、日本人がダメになったのではなく、現状の資金調達環境の問題が大きく影響していると思うのです。今や類似のビジネスモデルは、全世界で同時多発的に生まれています。そのときに、シリコンバレーでは数億円の資金が集まる一方、日本では数100万円しか集まらない。同じビジネスモデルでスタートした場合、圧倒的に資金力のある企業のほうが、成長スピードが速いのは当然です。また、多くの企業にとって、IPOがゴールになっていることも一つの課題だと感じます。日本のマーケットは決して小さくないので、上場すれば十分なリターンが得られると考える経営者が多いのでしょう。一方で、シリコンバレーに目を向ければ、何千億、何兆円のマーケットを目指せる世界もあるのです。日本だって、時価総額が何千億円に上る企業が出てきたときに、それを受け入れる態勢さえあれば、彼らはグローバルマーケットで十分に闘うことができる。今の若者のなかにも、ポテンシャルに満ちた凄い人たちが溢れているというのが私の認識です。彼らが世界で闘えるような資金調達環境を整備していった先に、日本から真のグローバル企業が誕生するのだと思っています。
◆ 編集後記 ◆
当メディア『ToBeマガジン』は、成長企業の経営者の生い立ちをはじめ、事業の原動力となった出来事など、その人物像にフォーカスした取材を特徴としている。これまで取材をしてきた経営者のなかには、幼少期からいわゆる「普通ではない」言動が目立ったり、「人と一緒がとにかくイヤ」など、主張の強い性格だったりと、特徴的なケースが多く見受けられた。一方で、日本クラウドキャピタルCOOの大浦氏の幼少期について伺うと、「おとなしい子どもだった」と、意外な答えが返ってきた。興味深く感じたのは、どんなときも(起業を決意したときでさえ)、「スイッチが入ったことがない」という発言。基本的にテンションは一定、淡々とした口調でお話をされる。バンド時代には髪を真っ白にしたり、コーンローにしたりと、かなり弾けていたようだが、ステージに上がると人格が変わるのだろうか(笑)。ぜひ一度、見てみたいと感じた。
ご自身のことは積極的に語らない大浦氏だが、事業の話になると、静かな情熱が伝わってくる。お話を聞いて何より驚いたのが、日本と海外における企業の資金調達環境の歴然とした差である。ちなみに日本の2018年のベンチャー出資額は4000億円。一方でアメリカは、10兆円に上るという。シリコンバレーでは、事業計画書1枚で数億円を調達できる世界がある一方、日本のスタートアップの資金相場は、300万~400万円。これは、スタートアップの資金調達手段が、銀行融資などに限られてきたことに起因する。IT関連など成長率の激しい業界では、初期の資金が不足するだけで、数年後には圧倒的な差が開いてしまう。我々の世代で責任をもって次世代にバトンを渡すことを考えていかなければ、将来の日本は挑戦すらできない経済環境に陥ってしまうと、大浦氏は危惧する。『FUNDINNO』の登場で、企業の資金調達の選択肢は拡がり、その環境は着実に変わりつつある。近い将来、世界の時価総額ランキングトップ50社に、日本企業が名を連ねる日が再来するかもしれない。大きなミッションを背負って奮闘する彼らの未来に、大いに期待したい。
取材:四分一 武 / 文:アラミホ
メールマガジン配信日: 2019年9月17日